片頭痛の定義

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片頭痛(migraine)

 片頭痛という名称の由来は頭の片側が痛むこととされています。たしかに左右どちらか片側に頭痛が起こる場合が多いのですが、実際には4割ちかくの片頭痛患者さんが両側性の頭痛を経験しておられます。片頭痛は前兆の有無と種類により「前兆を伴わない片頭痛」と「前兆を伴う片頭痛」などに細分類され、以前はそれぞれ普通型片頭痛、古典型片頭痛と称していました。

 前兆は、頭痛より前におこる症状でキラキラした光、ギザギザの光(閃輝暗点)などの視覚性の前兆が多くみられます。その他、半身の脱力や感覚障害(しびれ感)、言語障害などの前兆もあります。通常は60分以内に前兆が終わり頭痛が始まります。漠然とした頭痛の予感や、眠気、気分の変調などは前兆と区別して予兆といいます。

 片頭痛発作は通常4~72時間続き、片側の拍動性頭痛が特徴です。ただし非拍動性の片頭痛、両側性の片頭痛もあります。頭痛の程度は中等度~高度で日常生活に支障をきたします。また、階段の昇降など日常的な運動により頭痛が増強することも特徴のひとつです。悪心(吐き気)、嘔吐を伴うことが多く、頭痛発作中は感覚過敏となって、ふだんは気にならないような光、音、においに不快感を感じる方が多いようです。

 片頭痛の診断は国際頭痛学会の診断基準(表2)を確認して行います。本邦では、成人の8.4%、つまり約840万人が片頭痛にかかっていると報告されています。

 片頭痛の治療は大きくわけて2種類あります。頭痛発作がおこった時になるべく早く頭痛鎮めるための治療法を急性期治療(頓挫療法)といいます。もうひとつは頭痛がない日もあらかじめ毎日お薬を飲んで頭痛発作を起こりにくくし、また、頭痛発作が起こっても軽くすむようにするための予防療法です。発作回数が月に数回以内で、片頭痛発作による生活への悪影響があまりなければ急性期治療を中心にします。発作回数が多い場合や、生活への影響が強ければ急性期治療と予防療法を組み合わせて治療をします。

 急性期治療(頓挫療法)には処方箋なしで購入できる市販薬も含め鎮痛剤が広く使用されています。2000年からはわが国でも、片頭痛の特効薬ともいうべきトリプタン系薬剤(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタンなど)が使用できるようになりました。

 鎮痛剤の上手な使い方としては、頭痛発作のなるべく早期に使用することと、過剰に連用しないことです。連用により鎮痛剤誘発性頭痛といわれる別の頭痛がおこってきます。

 片頭痛に特異的な治療薬としてはスマトリプタンをはじめとするトリプタン系薬剤が注目されています。現在(2002年末)、日本ではスマトリプタン皮下注、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタンの経口錠が使用できます。いずれのトリプタンも頭痛の程度が強くなってからでも治療効果が期待できること、悪心・嘔吐、光過敏、音過敏などの随伴症状の改善も期待できる点がこれまでの他の薬剤より優れている点とされています。今後解決すべき点として、24時間以内の片頭痛再発の問題と心疾患や脳血管障害のある患者さんは使用できないことなどです。医師の処方箋が必要な薬剤ですので、トリプタンの服用に関しては医師、薬剤師によくご相談ください。優れた治療効果を有するトリプタン製剤が本邦でも使用できるようになって片頭痛治療が変わりつつあるといえるでしょう。

 中等度以上の片頭痛発作がある方はトリプタンを第1選択として試してみるとよいでしょう。ただし、トリプタンの効果や副作用は種類(ブランド)によって少しづつ異なるので、何種類かを試みて一番ご自分にあったトリプタンを選択するのがよいとされています。

 トリプタンの登場により片頭痛の効果的な治療ができるようになり、片頭痛による日常生活の支障やQOLの阻害は軽減できるようになりつつありますが、一方で、使用量が増加しトリプタンによる薬剤誘発性頭痛も報告されています。1ヶ月のトリプタン使用量としては10回以内を目安とすべきであるというのが、現時点での専門医の平均的な意見です。月に10回を超えてトリプタンを使用している場合には、予防薬を適切に併用してトリプタンの使用が月に10回以内ですむようにコントロールするべきです。ただし、特殊な片頭痛などで専門医の管理の元で一時的に10回以上使用することは問題ないでしょう。

 多くの片頭痛患者さんがトリプタンの恩恵を受けられるようになってきているのですが、片頭痛患者さんの一部にはまったくトリプタンが効かない方がおられます。専門的にはトリプタンのノンレスポンダーと言いますが、トリプタンの恩恵が受けれない患者さんへの対策も検討していく必要があると考えています。

 血管収縮薬である酒石酸エルゴタミンは、トリプタンにとって変わられつつありますが、トリプタンノンレスポンダーには今後も重要な薬剤です。エルゴタミンは頭痛発作の初期に用いるほど有効率が高く、悪心があるような場合にはメトクロプラマイドやドンペリドンなどの制吐剤を併用するのがよいでしょう。

 頭痛の発作回数が多い場合(月に4回以上)や、頭痛の程度が高度の場合、頓挫療法があまり効かない方は予防療法を併用するのがよいでしょう。また、片麻痺性片頭痛や、脳底型片頭痛、遷延性前兆を伴う片頭痛、片頭痛性脳梗塞など重大な神経障害をおこすおそれのある特殊な片頭痛の場合も予防療法が必要です。

 予防療法の治療目標は、頭痛発作の回数を半分以下に減少させて、頭痛の程度を軽くすること、頭痛の持続時間を短縮し、急性期治療薬の効果を増強して、頭痛による日常生活への影響を最小限にして活動性を改善することとされています。予防療法により頭痛発作が完全に抑制できることもあるのですが、完全に頭痛をなくすことを求めすぎるのはあまり得策ではありません。

 予防療法にはCa拮抗薬やβ遮断薬といわれるや薬剤がよく用いられています。塩酸ロメリジン(ミグシス、テラナス)は片頭痛治療薬として使用されているCa拮抗剤です。その他ベラパミルやジルチアゼムもよく使用されています。β遮断薬ではプロプラノロール、メトプロロールなどがよく用いられています。難治性の片頭痛症の場合には、抗うつ剤、特にアミトリプチリン(トリプタノール)が好んで用いられています。慢性的な痛みのために抑うつ的になることがあるのですが、抑うつ状態でない慢性頭痛の場合にも有効であることが確かめられています。



(国際頭痛学会1988、頭痛研究会邦訳)